書評

【書評】組織の不条理に学ぶ、持続可能な組織のあり方

皆さんこんにちは。IGAです。
本日は、組織の不条理、という本を紹介します。

この本は、太平洋戦争で起こった日本軍組織の問題点について、最新の経済学理論を使って説明をしています。

日本軍の問題点というと、「失敗の本質」という本が大変有名で読まれた方もいるかと思います。

「失敗の本質」では、米国の合理的な意思決定ができる組織に対して、日本の非合理的な意思決定のプロセスにフォーカスが置かれています。

そのため、組織が非合理的な意思決定を避けるために学ぶことが多いのですが、一方で、なぜ日本軍がそんなに非合理的な意思決定をしてしまうのか?当時の日本軍幹部は頭がおかしかったのか??というところで思考が止まってしまいます。

失敗の本質は日本軍の意思決定を現代の国や企業になぞらえて同じ轍を踏まないようにするために役立つ示唆が多いのですが、そうすると今の政府や業績が伸び悩んでいる大企業のトップは全員施政能力が低い、となってしまいます。

しかし、決して能力が低い人間がトップに立っているわけではなく(まあ、一部そうとしか思えないこともありますが、、、)、優秀な人材を選んでいるはずの大組織の意思決定がおかしいものになってしまうのか?という疑問に答える必要があります。

「組織の不条理」は、意思決定のおかしさという疑問に対して、どんな組織でも起こりうる構造的な問題を指摘してくれます。

一見すると非合理的な意思決定をしていることでも、組織の中を詳細に見るとそれぞれは合理的に行動した結果、全体が非合理になることがよくあります。

組織としての不条理を最新の経済学理論で説明をしており、とても腹落ち感の高い本となっています。

 

こんな方におすすめ

  • 失敗の本質を読んで、当時の日本軍は非合理的な意思決定をするだめな組織だったと思っている方
  • 失敗の本質を読んでいなくても、国が非合理な政策をしたり、企業が一見すると間違った戦略を立ててしまうのか、そのメカニズムを知りたい方
  • 日本がなぜ戦争に負けたのか?負けるとわかっている戦争に突入したのかの理由を知りたい方
  • 最新の経済理論に触れてみたい方

 

サマリ

  • 組織や人の非合理的な意思決定は、経済理論で説明できる部分が大きい
  • 組織や人は、完全合理的ではなく限定合理的に意思決定をする
  • 組織の中で考慮すべき最新の経済理論は、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有者理論の3つ
  • 3つのコストを抑制するためには、組織の中に健全な批判をできる機能が必要
  • 完璧主義や過去の成功体験を捨て、失敗を恐れず新しい試みに挑戦できる組織が変化に対応できる
  • この考え方は、個人でも重要で健全な批判を自分で持ち常に学習をしていくことが必要

 

 

日本軍が陥った組織の不条理とはなにか

この書籍では、日本軍が陥った失敗(一部成功も含む)について経済理論を用いて説明をしています。

第一部で経済理論の説明、第二部で戦争の具体的な事例、第三部でそれを現代の組織に適用した考え方のまとめを書いています。

そのため、著者もまえがきで述べていますが、経済理論に慣れていない方は、第二部から読むことをおすすめします。

その第二部で取り上げている戦争の事例は、ガダルカナル島、インパール作戦、ジャワ軍政、硫黄島・沖縄戦です。

エピローグでは、太平洋戦争に突入していった全体の意思決定のプロセスにも触れていますので、エピローグを最初に読んでもいいかもしれません。

ガダルカナル島での戦争は、戦争のやり方が近代兵器を用いた効率的な戦いに変化したにもかかわらず、白兵戦(主に夜襲を用いた軍刀や銃剣突撃)にこだわり大損害を被った事例をもとに、勝てないとわかっていながらそのやり方に固執せざるを得なかったのかを説明しています。

インパール作戦は、史上最悪の作戦と称されるため、知っている方も多いかもしれません。

雑な言い方をすると、車がないので牛に荷物をもたせミャンマーからインドを攻める、という戦略も戦術も???となる作戦です。

なぜこんな作戦が決定され(作戦は大本営が決定するので現場が勝手に攻めることはできない)実行されたのか、について説明されています。

ジャワ軍政は、うまく行った事例として、日本が開戦当初に統治したジャワ(インドネシアのジャカルタ)の統治について述べています。

私も詳しくはなかったのですが、この統治にあたったリーダーである今村均という方が、非常に人道的な統治を行った結果、統治が非常にうまくいきました。

普通は植民地にすると、現地でテロなどの反乱が起きるのですが、ジャワでは一切起きませんでした。

今村の統治のやり方は敗戦後連合軍側からも称賛され、今でも「仁将」と呼ばれるほどです。

人道的な統治が、実は経済学の観点から見ても合理的だったということを本書では説明されています。

硫黄島と沖縄戦は、ドラマや映画などでも題材とされるほど悲惨な戦いだったと一般的には捉えられています。

民間人の犠牲者の数が多く、日本軍がこれまでの非合理的な戦争のやり方が強く印象付けられて精神論に基づいた非科学的、非人道的な戦争だとみなされています。

ただ、最近の研究では、硫黄島と沖縄戦はそこまで非合理的な戦い方を日本軍がやっていたわけではなく、これまでの失敗から学習し自主的に組織変革を起こしていることが判明しています。

なぜ、日本軍が自主的に組織変革が起きたのか、について本書では説明されています。

 

組織の不条理を説明する3つの経済理論

日本軍は、なぜ非合理的な戦い方をしてしまったのか、一部の戦争ではなぜそれを回避できたのか、について3つの経済理論で説明をしています。

その3つの理論は、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有者理論の3つです。そしてその前提となる人の行動についても説明がされています。

 

前提:人は限定的に合理的である

従来の経済学の理論は、前提として人は完全に合理的に行動するとして様々な理論が成り立っています。

しかし、現実には決して完全合理的に行動をすることはありえないです。

行動経済学などは、完全合理性でない人の行動を説明していますが、この本で取り上げている考え方は、人は限定的に合理的であるという考え方です。

限定的というのは、情報を完全に入手できなかったり、入手してもすべて情報を処理できなかったり、利益よりも損失を回避する傾向が強かったりします。

ざっくりいうと人は完璧ではない、ということです。

完璧ではないので、相手の不備に付け込んで自分の利益を最大化するような行動を取ることもあります。

これを機会主義と呼びます。

 

取引コスト理論

この限定合理的かつ機会主義的な人が行動をすると、他人に嘘をついて騙す行為が発生します。

他人は騙されるのが嫌なので、騙されないように取引をする際に契約をするときに制約をつけるようになります。

製品の不備があった場合、売り手、買い手のどちらが保証するのか?など企業で契約をするとき様々な条項に対して取り決めをする必要があり、時間やコストが掛かります。

こうして発生するコストのことを取引コストと呼びます。

そしてこの取引コストが高くなると、非合理的な行動を取ることが起こりえます。

例えば、会社で使っているコピー機が古く、買い替えたほうが業務効率が上がることがわかっているとします。

しかし、買い替えをするには、コピー機を管理している担当者が会社に稟議を上げ、予算の承認を取り、新型コピー機の見積もりを取り、導入をするときに新しい機械の使い方を全社員に説明する、というコストが掛かります。

これは、担当者からすると相当めんどくさい(とくに購買プロセスが複雑かつ詳細に決められている企業ほど大変)ので、多少効率が悪くても現状のコピー機を使い続けるという非合理的な行動が発生することがあります。

同じことが日本軍でも発生しました。日本軍は、日露戦争の頃から白兵戦を磨き上げており相当な投資をしていました。

一方、世界の戦争のやり方は、第一次世界大戦を境に急速に近代兵器にシフトしており、日本の戦い方も変わる必要がありました。

しかし、戦い方を近代兵器に変えるには相当額の投資と今までの勝ちパターンを捨てるという大きな意思決定が必要(少なくとも陸軍の猛反対に合う)で、変わることができず、ガダルカナル島での敗戦につながったとされています。

 

エージェンシー理論

エージェンシー理論というのは、どんな組織や契約でも雇い主(プリンシパル)と雇われ側(エージェント)がいて、それぞれの利害は一致しない、という考え方です。

例えば、仕事でいうと、上司部下の関係でいうと、上司はプリンシパル、部下はエージェントになります。

会社の組織でいうと、社長はプリンシパルで、上司はエージェントになりますが、株主と会社の関係でいうと、社長はエージェントで、プリンシパルは大株主やオーナーになります。

利害が一致しないというのは、すぐにわかる方も多いかと思いますが、部の予算を達成したいと思っている上司と、自分のノルマが達成したらあとは関係ないと考えている部下とでは、行動が一致しないことがあります。

そのため、就業規則で縛ったり、部の予算が達成したときにはインセンティブを出すなどの工夫が必要です。

日本軍で発生したエージェンシーコストは、大本営と現地の司令官の利害が一致しないことです。

大本営は、当たり前ですが戦争を優位に進めたい、です。

一方、現地の司令官は、戦争に勝つことはもちろんそうなのですが、自分の出世や保身も考えています。

インパール作戦は、当初から反対の意見が多く、起案されたときから大本営も反対をしていました。

そのため、この作戦自体は長らく保留という意思決定がされていました。保留という意思決定が良くなかったのですが、多くの大本営にいる反対派は保留=実行されうる作戦ではないと思っており、この作戦に関する関与を薄めていきました。

一方、ビルマの司令官たちは戦局が悪くなる一方の状況下で、画期的な打開策を求められており、起死回生としてインパール作戦にすがるように現地での団結力を高めていきました。

関心が薄くばらばらになった反対派と、団結した推進派が議論をすると、、、まあ典型的なだめな日本型組織ではどうなるかは明らかでしょう。

 

所有権理論

所有権理論とは、土地や財産などの所有権をどこまで定義するのか?という問題のことです。

例えば、工場を持っている企業が、有害な排気ガスや汚染物を外部に流出させた場合、その所有権は誰のものになるのか?ということです。

今では当たり前のように法律が整備されており、特定の基準を超えた有害物質を外部に放出することは許されませんが、法律がない前は、日本でも様々な公害がありました。

ありえない例になってしまいますが、公害に対して罰金を課す法律が制定されたとします。

このときの法律があまりにも高い基準だとしたら、罰金を払い続けるコストと、環境対策を工場に施すコストを比較したとき、環境対策をせずに有害物質を垂れ流して罰金を払い続ける、なんてことも起こりえます。

土地と工場を保有したときの環境対策のコストを所有権コストと呼びますが、所有権コストが高くなると非合理的な行動が発生してしまうということです。

戦争では、捕虜や占領地に対する扱いで、同じようなことは起こりえます。

捕虜を人道的に保護をしたり、占領地の住民に人道的な処置をすることはコストが掛かります。

しかも捕虜や領地を取るということは戦争に勝っているわけで、勝てば官軍的な考えが通用してしまう状況下でわざわざ人道的な処置をするのか、と言われると非常に難しい問題が発生します。

しかし、ジャワ島を制圧した日本軍は今村均を中心に非常に人道的な処置を現地に対して施しました。

結果的に現地の人が少ないコストで日本軍にも協力的になり、その後の統治が非常にうまく行ったため、経済学的にも合理的な施策として本書に取り上げられています。

 

失敗から何が学べるか

これらの3つの理論は、経済理論として確立されており、様々な企業事例をもとにした研究もされています。

そのため現代の組織でも応用できる理論になります。例えば、詳細は、入山章栄さんの「世界標準の経営理論」という本にも書かれており、取引コストやエージェンシー理論の例が掲載されています。

ぜひ読んでみてください。

 

これらの日本軍からの失敗をどう学ぶのかという本題に戻ります。

戦略や組織設計を考える上で、人は限定的に合理的にしか動けない(=完全合理的な行動はありえない)という前提に立ち、機会主義的な行動をどうやって制御するかということが非常に重要です。

取引コストを下げるには、M&Aやメーカの垂直統合のようなやり方があります。

近年ではITの活用により情報の非対称性というのが下がってきているので、うまく自社のオペレーションにITを取り入れることも有効です。

エージェンシー理論は、企業でいうと取締役会のような牽制機能をもたせたり、持株会のような、株主側と企業の従業員で同じインセンティブをもたせる仕組みも有効です。

所有権コストは、権限移譲などが有効です。

このように、3つのコストを下げるための方法は多く研究されていたり、事例も多いので興味がある方は調べてみて自分の組織に取り入れられることを考えてみることをおすすめします。

 

変わらない組織は滅ぶ

最後になりますが、組織の中に発生する不条理について、どうすれば回避できるのか、について、本書にある考えを紹介して終わりたいと思います。

組織を取り巻く環境は常に変化し、過去に成功したことが将来において足かせになることはよくあります。

これを回避するには、組織自体の中に健全な批判をする機能をもたせることが重要です。紹介した3つのコストを下げることにも繋がります。

日本軍の失敗は、多くの示唆を与えてくれますが、組織自体が自己批判をすることができない組織だったと感じました。

成功体験を積み上げて来た組織はそうなりがちですが、勝利主義になり失敗が許容できないため硬直化してしまいます。

その結果、戦い方が変化しても自らが対応できなかったり、限定的な情報を好都合に解釈し判断をしたり、誤った戦略を批判的に捉えて修正をすることができなかったりします。

以前、リベラルアーツの紹介をしたときに、健全な批判力を持つために様々な学びをする、という趣旨のことを書きましたが、組織についても同様で、健全に自己批判をすることができない組織はいずれ滅ぶ、ということが様々な事例とともによく理解できる本でした。

一方で、自分自身も、このようなジレンマに陥らず、健全な批判力を持ちながら学習をしていくことの重要性を改めて感じることができる一冊でもありました。

失敗の本質の更に先を説明する良書だと思います。興味があればぜひ読んでみてください。

 

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